3) 西村伊作の住宅 


3-a 居間を中心とした住宅・バンガロー

 彼がもっとも強く普及を願っていた住宅は、旧来の主人や客を過度に重視した住宅ではなく、家庭生活の核となる居間を中心とした間取りの洋風住宅(*)、ということができるでしょう。彼は手本を米国のバンガローに求め、それを我が国の実情に合うように改良するとよいのではないかと考えました。
 今日、私たちはバンガローというと海や山などのキャンプ地にある簡易な宿泊施設を思い浮かべますが、米国におけるバンガローは1900(明治33)年頃から西海岸より全米に爆発的に流行していた一住宅形式であって、その特徴は平屋で緩い傾斜の屋根を持ち、間取りは居間を中心としたもので、玄関はなく広いポーチがあり、外部からはそのポーチから直接居間に入るもので、客間なども重視されませんでした。これらのことからわかるようにこの住宅は実質的な家族本意のものでした。米国から伝わったこのバンガローは、今日私たちの一般的な住宅である居間を中心とした住宅の祖形と考えられています。
 彼はバンガローに早くから注目し、1906(明治39)年、彼が生まれ育った和歌山県新宮町(今の新宮市)に小バンガローを建築しました。このバンガローは我が国最初のバンガローと見られており、このことは我が国の近代住宅史上特筆されることです。
 (*)このような住宅のことを近代住宅史では「居間式住宅」あるいは「居間中心形住宅」と呼んでいます。

彼が建築したバンガロー  『楽しき住家』より
外観 平面



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